引きこもりが社会へ出るために、親が知っておくべき2つのこと

「働け」と言っても動き出さない。
やっと働き始めても、仕事が続かない。
これが今の若者の傾向です。

彼らを社会へ押し出すために、親は何をすべきでしょうか。
親の行動を考えるには、なぜこんな傾向があるのか、知る必要があります。

今回は、親が知っておくべきことを、2つお伝えします。
知ることで親の言動が変わり、子どもに届くようになればと思います。


仕事への考え方が変わった

仕事がつまらない時代になった

仕事に悩む引きこもり

知っておくべきことの1つ目は、仕事への考え方の変化です。
仕事への考え方は、時代とともに変わっていきます。

特に近年は変化が激しく、親世代と子ども世代では、まったく違っています。
その理由に、仕事そのものの変化があります。

機械化やAIの発展もあり、仕事の質も変わってきました。
面白くやりがいのある仕事と、つまらない仕事。
この二極化はこれからどんどん進んでいくでしょう。

面白い仕事のほとんどが、新卒採用から続くいわゆる「勝ち組」の道にあります。
引きこもり経験者が面白い仕事につくことは、難しいと言わざるを得ません。
「働け」という言葉は、彼らには「つまらないことをしろ」と聞こえているかも知れません。

物欲がなく、お金があまり必要ではない

物欲のないニート

豊かな時代に生まれ育ったことも、理由の一つです。
子どもたちは、本当の貧困は知りません。
実際のところ、貧困に陥っても助けてくれるシステムも揃っています。
彼らは、飢えて死ぬことはないのです。

加えて、豊かに育った彼らは、物欲があまりありません。
親世代が当たり前に求めていた車やマイホームは、必要ない、色々めんどくさそう、とマイナスイメージすらあります。
家でのんびりと友人と飲む、ゆっくりゲームをする。
そんなお金をあまり使わないようなことで、十分楽しめるのです。

正社員になったり、フルタイムで働いてまでも稼ぐ必要性。
それが彼らにはあまり感じられないのです。

将来への不安は、「貧困」ではなく「孤独」

孤独が不安

引きこもりから出てきた人たちに何が将来への不安か聞くと、「孤独なこと」と答えます。
不安なのは、「貧困」よりも「孤独」なのです。

彼らは、仕事ばかりに打ち込んで、定年したらすることがない父親たちを見ています。
それは彼らが恐れる、「孤独」を感じさせます。

「僕は父親のような生き方、働き方はしたくない」

この言葉は、若者支援の現場では珍しくありません。
そんなにお金が必要でない時代になり、貧困が恐怖の対象ではなくなりました。

お金の価値が下がり、孤独でないことや自分の時間など、他の大切なことの価値が上っています。
お金の価値が変わったため、仕事の価値も変わっているのです。

親が「正社員志向」をやめる

正社員の価値観

それでも、「正社員になりたい」という子どもたちはまだまだいます。
彼らが正社員に求めていることは、大きく2つです。

  • 親に認められること
  • 安定すること

親に認められたい気持ちは、ほとんどのお子さんが持っています。
「親が正社員になってほしいと思っている」と考えてしまうと、それ以外の道が選べません。
引きこもりから正社員という、ない道を探し、先へ進めなくなります。

「正社員になれば安定」というのも、親世代の頃の話です。
終身雇用が崩れた今の時代は、正社員になっても安定とは言えません。
なんとか正社員になれたとしても、そのギャップに子どもは苦しむことになります。

「正社員になってほしい」
「正社員になれば安定」

まず親がこの考えを変えて、子どもに伝えていかなくてはなりません。
でなければ、子どもはありもしない幻想を探して動けなくなります。

「働け」ではなく、「幸せになれ」と言おう

幸せになれと言おう

「働け」という言葉の奥に、親は将来への希望を抱いています。
ですが子どもに届く「働け」は、ただ仕事に蝕まれるだけの、暗い未来に包まれています。

この「働け」がイメージさせるものの違いを、よく覚えておいてください。
だからこそ、「働け」では子どもは動きださないのです。

では、何と言えばいいのか。
私たちがおすすめしたいのは、

「幸せになれ」

です。

親が選ばないような生き方でも、子どもが幸せと感じるなら、親として認める。
そんな気持ちを込めて、「幸せになれ」と言ってあげてください。

親が考えを変えないと、子どもは自分の幸せを考えられない

親が生き方の考え方を変える

子どもは親と違う生き方に幸せを感じるかも知れない。
特に父親は、「だったら好きに生きればいいじゃないか」と思うかもしれません。

実は子ども自身は、「こんな生き方をしたい」と強い意思を持っているわけではありません。
違和感がありながらも、親が望む将来を捨てられません。

今の子どもたちはとても優しく、親の意見を無下にできないのです。
苦しくても、親の意見を捨てずに心に持ち続けています。
だからこそ、「親が考えを変える」が先なのです。

親世代の考えの呪縛から解放してあげる。
それでやっと、子どもたちは自分はどんなふうに生きていきたいのか、考え始めます。

子どもに明るい未来を感じさせよう

引きこもりの子どもの明るい未来

親が仕事への考え方を変え、多様な幸せを認める。
そうして、子どもに心から「幸せになってほしい」と願う。

「働きたいけど働けない」という思考に陥って出口が見えない子どもたち。
彼らにとって、それは新たな出口になることでしょう。

「仕事」が変わっていることを理解する。
新しい「仕事」、そして「幸せ」を認める。

親の考え方を変えて、子どもに明るい未来を感じさせてあげてください。
それが、子どもを社会に押し出すことにつながっていきます。


自分のためには頑張れない

仕事が続かない子どもたちは、「自分のために頑張ること」が苦手

誰かの役に立つ

せっかく仕事を始めたのに、数か月でやめてしまう人がたくさんいます。

なぜ頑張って仕事を続けられないのでしょうか。
それは、頑張る自分を支えるものがないからです。

今の子どもたちの特徴に、自己肯定感の低さがあります。
自分で自分を認めることが、なかなかできません。
そんな彼らが、苦手にしていることがあります。

「自分のために頑張ること」です。

「自分のために」では、仕事をする気持ちを支えきれない

仕事をする意味

親世代は、「自分のために頑張る」ことはそんなに難しくありません。
だから我が子にも、

「これはあなたのためよ」
「お前自身のことなんだから」

と言ってきたと思います。

ですがそれは、子どもたちには響かない、力を呼び出せない言葉だったのです。
仕事をしていくためには、やはり頑張ることも必要です。
そうしなければ、仕事は続きません。

仕事で辛いことがあったとき、「自分のために」では、気持ちを支えられないのです。
先ほどお伝えしたように物欲も低いですから、給料の金額でも支えきれません。

誰かの役に立つことで、頑張れる

誰かの役にたつ仕事

では、何のためなら彼らは頑張れるのでしょうか。

1つめのキーワードは、「役立ち感」です。
今の子どもたちは、とても優しいのが特徴です。

ボランティアなどへの興味も高く、誰かの役に立ちたいと思っています。
自分のためには頑張れない。
でも困っている誰かのためなら頑張れる。

誰かに感謝されることで、低い自己肯定感も少しずつ補えます。
感謝された事実が、気持ちを支えてくれます。

「役立ち感」を得られることが、頑張る力になります。

仕事を継続するためには、役立ち感を優先する

役に立つ実感

役立ち感を得られる職場であれば、仕事が続くかもしれません。
ですが先ほどお伝えしたように、仕事がつまらない可能性が高くなっています。

解決策は、次の2つです。

  1. 給料は低くても、役立ち感が得られる職場を選ぶ。
  2. 仕事のシフトを減らしてでも、ボランティアなどに役立ち感を得られるものにも参加する。

親としては、少しでも多い日数働いてほしい、より多く稼いでほしいと思うかもしれません。
ですがどんないい仕事でも、続かなければ意味がありません。

あまり子どもに多くを求めず、「仕事の継続」だけを考えましょう。
そのためには、「役立ち感が満たせる環境」を優先するべきです。

「仲間」がいると、何となく仕事が続く

支え合う仲間

子どもが自分を支える2つめのキーワードは、「仲間」です。
こう書くと、「友人と励まし合って頑張る」とった想像をされるかも知れません。
ですが彼らは、親世代がイメージする「友人」とは少し違う関係を持っています。

友人ではなく、「仲間」と書いた理由はそこにあります。
仲間とたわいない話をする。

その中で、仲間も似たような環境で何とか続けていると知る。
「じゃあ僕ももう少しこの仕事を続けようかな」と思う。

友人のようなしっかりした関係とは違う、ゆるいつながり。
そんな関係性の中で、何となく仕事が継続できるのです。

職場で「仲間」を見つけるのは難しい

職場のつきあい

職場でいい仲間ができれば、それでいいでしょう。
ただ、職場で仲間を見つけるのは難しいと言えます。

職場に同世代の人がいない。
今後のことを考えると、職場のことを何でも言えるわけではない。
仕事を辞めると関係が切れてしまうこともあります。

自分が仕事を辞める、シフトを減らすなどしても影響を受けない人の方が、愚痴も言いやすいでしょう。
子どもが自分で仲間を見つけられるタイプなら、その後押しをしてあげてください。

できないタイプなら、親がつなぐ必要があります。
寮など、同じような悩みを持つ人たちの輪に押し出し、人とつながる経験をさせましょう。
仲間づくりは、仕事を始めると忙しくなり、後回しになります。
そうこうしているうちに、辞めてしまうのです。

まずは仲間を見つける。
仕事を始めるのはその後。
自分で仲間を見つけられないタイプは、この順番の方がいいでしょう。

子どもの人生全体を考える支援が、仕事の継続につながる

子どもの人生全体を考える支援

仕事を継続するために必要なのは、仕事のスキルなどではありません。
つらいときに自分を支えてくれるものを持っているかどうかです。

今の子どもたちにとっての支えは、「役立ち感」や「仲間」です。
自分のため、自分の将来のため、では支えらません。
引きこもりが社会に出るには、仕事の訓練をするだけでは足りません。
もっと幅広く、総合的な支援を意識しなければいけないのです。

親はまず、とにかく仕事を、という思考から離れましょう。
仕事を含めた、子どもの人生を考えてあげてください。

少し遠回りですが、結局それが仕事の継続につながるのです。


まとめ

「働け」と言っても動き出さない。
やっと働き始めても、仕事が続かない。
そんな引きこもりの子どもを持つ親が知っておくべきことは、次の2つです。

仕事への考え方が変わった

変化した仕事への価値観

機会化やAIの発展もあり、仕事の質が変化しています。
仕事がつまらない時代になっているのです。

親の「働け」という言葉は、「つまらないことをしろ」と聞こえているかも知れません。
豊かな時代に育ち、本当の貧困を知らない子どもたち。
物欲がなく、お金がなくても楽しむことができます。
お金があまり必要ではないため、必死に稼ぐ必要性が感じられません。

彼らの感じる将来への不安は、貧困よりも「孤独」です。
仕事ばかりに打ち込む父親を見て、「あんな生き方はしたくない」と思っています。
彼らにとってお金の価値は高くないため、仕事の価値も下がっているのです。

それでも正社員を目指す子どももまだまだいます。
彼らが求めているのは、「親に認められる」「安定する」の2つです。
ですが引きこもりからいきなり正社員という道は、なかなかありません。
更に今は、正社員も安定とは言えない時代です。

「働け」という言葉は、子どもにとっては仕事だけの暗い未来をイメージを伴います。
だからこそ、「働け」という言葉では、子どもが動き出さないのです。
子どもには「幸せになれ」と言ってあげてください。

今の子どもたちはとても優しく、親の望む将来を捨てられません。
まず親が考えを変えて、親世代の考えから開放してあげましょう。
それでやっと、子どもたちは自分なりの生き方、働き方について考え始めます。

親が仕事への考え方を変えて、多様な幸せを認めること。
そうして子どもに明るい未来を感じさせること。
それが、子どもを社会に押し出すことにつながります。

自分のためには頑張れない

がんばれないニート

せっかく始めた仕事が続かない、そんな子どもたちが多くいます。
自己肯定感が低い彼らは、「自分のために頑張ること」が苦手です。
「自分のために」では頑張りを支えきれないため、仕事をやめてしまうのです。

親は自分のために頑張った世代なので、我が子にも「あなたのためよ」と声かけします。
それは子どもには響かない言葉です。

「自分のために」でも、物欲がないのでお金のためでも、頑張ることができません。
彼らが頑張れる1つめのキーワードは、「役立ち感」です。
困っている誰かのためになら頑張れる、優しい世代なのです。
誰かの役に立って、感謝された事実が、頑張る気持ちを支えてくれます。

仕事の継続のためには、子どもに多くを求めずに、次の2つを優先しましょう。

  1. 給料は低くても、役立ち感が得られる職場を選ぶ。
  2. 仕事のシフトを減らしてでも、ボランティアなどに役立ち感を得られるものにも参加する。

彼らが自分の支える2つめのキーワードは、「仲間」です。
友人のような強いつながりとは違う、ゆるいつながりの「仲間」。
仲間とのゆるい関係性の中で、何となく仕事が継続できていきます。

職場でいい仲間を見つけるのは、なかなか難しいのが現実です。
子どもが自分で仲間づくりに動けない場合は、親がそういう場につなぐ必要があります。
仕事を始めると仲間づくりの時間は取れないので、先に仲間づくりをしましょう。

仕事の継続に必要なのは、自分を支えてくれるものを持っているかどうかです。
引きこもりが社会に出るには、幅広い支援が必要なのです。

親はまず仕事という思考から離れて、子どもの人生全体を考えてあげてください。

ニュースタート事務局スタッフ 久世 

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執筆者 : 久世 芽亜里(くぜ めあり)

久世芽亜里

認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。

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