ひきこもりからの自立に不可欠な「社会力」とは?〜「社会性」との違いと成長のステップ〜

もし、お子さんが家にこもり続けているなら、親として
「いつまで待てばいいのか」
「私の育て方が悪かったのか」
と出口の見えない不安を抱えていることでしょう。

ただ、「私は信じて待ってあげて、子どもが元気を取り戻せば、いつか働けるようになる」という考え方だけでは、長期化の悪循環から抜け出すのは難しいかもしれません。
なぜなら、ひきこもりを乗り越え、自分らしい社会生活を送るためには、「元気」とは別に、成長を止めてしまったある能力を伸ばす必要があるからです。

このコラムでは、ひきこもりからの自立に不可欠な「社会力」とは何か、そしてそれを伸ばすために親御さんが持つべき視点について、具体的なステップと共にご説明します。

この内容はこちらの動画でも説明しています


1. 「社会力」と「社会性」の違いを知る

ひきこもり支援や対応で、社会性を身に付けるという話は、一般的です。

それに対し「社会力」とは、門脇厚司先生が提唱している言葉です。
これはしばしば「社会性」と混同されがちですが、この2つには大きな違いがあります 。

  • 社会性今ある社会に適応する力(共感力やコミュニケーション力などを使って、既存のルールや集団に合わせていく力)
  • 社会力社会を作っていく力 (人間力や総合力といった側面に置き換えられ、もし今の一般的な社会に適応できなかったとしても、自分で必要な人と繋がって、自分の社会を作っていくことができる力を意味する)

社会力があれば、孤立することなく、自分にとって生きやすい生き方を選べるようになります 。

2. 社会力は「多様な他者との相互行為」で培われる

この社会力をいかに伸ばすかについて、門脇先生は著書の中で「多様な他者との相互行為によって培われる」と述べています 。

相互行為とは、2人以上の人が互いに働きかけ、行動のやり取りをすることです 。
自分と他者の間で様々なやり取りを繰り返すことが、社会力を伸ばすことに繋がります 。

3. 社会力を形成する3つのステップ

社会力は、一朝一夕に身につくものではなく、段階を踏んで形成されていきます

第1ステップ:0歳から3歳(ベースの形成)

  • 相互行為の他者: 主に親です 。
  • 内容: 笑いかけたら笑い返す、話しかけたら話し返すといったお互いのやり取りです 。
  • 重要性: ここで大事なのは、愛着を持ち、ちゃんと愛情をやり取りができること
    これが、その後の社会力形成のすべてのベースになります 。

第2ステップ:4歳から25歳頃(成長・伸長の期間)

  • 相互行為の他者: 幼稚園のお友達から始まり、学校、職場と、次から次へと現れる見知らぬ人たちとの相互行為が続きます 。
  • 期間の長さ: この期間は22年間という長い年月が充てられています 。
    学校や仕事で他者とのやり取りを繰り返してなお、これだけの期間が必要だとされています 。
  • ひきこもりによる影響: 例えば、ひきこもって時間が止まり、家族以外との関係性がないという状況になると、この成長(社会力)も止まってしまいます
    家族とのやり取りだけで社会力を形成する期間は3歳で終わっているため、それ以降は新しい他者とのやり取りが不可欠です 。

第3ステップ:20代後半から(発揮と更なる向上)

  • 内容: 第2ステップで身に着けた社会力を発揮して社会生活を送ります 。
    一部の人は、この中でもさらに社会力を高めていきます 。

4. 自信は「外の社会」で他人から認められてつく

ひきこもりからの脱出・自立を目指す場合、不足しているこの社会力をいかに伸ばしていくかが大切になります

「自信が持てなくて次に踏み出せない」という場合、家に1人でじっといて親とだけやり取りしていても、なかなか自信はつきません

自信は、少し外の社会に触れて、他人(第三者)から認められる、褒められるといった経験をして、それでついていくものなのです 。
そのため、傷つき、一番つらい時期を終えたら、なるべく他人と接する機会を持って、相互行為を繰り返すことが重要です 。

5. オンラインの限界と「適切な負荷」の必要性

社会力を伸ばす上での相互行為において、オンラインでのやり取りは効果としては大分薄いと思われます 。
得るものが少ないため、最終的にはリアルでの相互行為に持っていく必要があります 。

また、支援において、ただそっとしておいて元気を取り戻すだけでは、持っている社会力が同じであれば、できることは変わりません 。
その人に適切な量の負荷をかける必要があり、「今のその人にとって適切な負荷」をかけ続けることが重要です 。

6. 親御さんが持つべき判断基準

親御さんがお子さんの現状を考える際、「今、その人の社会力がさらに伸びていくような環境であるか」を判断基準にしてください 。

例えば、

  • 親とは会話できるが、他者と全く会話できない
  • 少ない友達はいるが、オンラインだけのやり取りでとどまっている

これらの状況は、社会力の伸長を促す「多様な他者との相互行為」の段階が不足している可能性があります

両親だけとの関係から、新しい誰か(第三者)が入ってくる
それが複数になり、友達との対等な関係だけでなく、働くことによる上下関係など、さまざまな種類の相互行為を経験していく流れになっているか 。
このステップアップを意識することが、ひきこもりからの自立と、本人が望む社会を創る力(社会力)を伸ばす鍵となります 。

まとめ

ひきこもりの長期化を食い止めるカギは、「いつか元気が出る」と待つことではなく、「社会力」を伸ばす環境を整えることにあります 。

「社会力」とは、既存の社会に適応する力(社会性)ではなく、自分に必要な人と繋がり、生きやすい「自分の社会」を作っていく力です 。

お子さんの社会力は、親との愛着形成が終わった後、「多様な他者とのリアルな相互行為(やり取り)」を繰り返すことでしか伸びません 。

ご両親だけで完結している環境では、お子さんの成長は止まり、選択肢が減り続けてしまいます

親御さんがすべきは、お子さんに適切な負荷をかけ孤立した環境から抜け出し、他者との相互行為を始めるための最初の「ステップ」を踏ませることです 。

今の環境が、お子さんの社会力をさらに伸ばす環境になっているかどうか。
これが、親御さんが持つべき最も重要な判断基準です 。

この「社会力」という考え方を、お子さんのひきこもり対応にぜひ取り入れてください。

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執筆者 : 久世 芽亜里(くぜ めあり)

久世芽亜里

認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。

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