【ひきこもりと家庭内暴力】親がやってはいけないNG対応

ひきこもりのお子さんの、暴言や暴力。
どう対応すればいいのでしょう?

良かれと思っての言動が、実は状況を更に悪化させる危険性があります。

このコラムでは特に、「これは絶対やっていはいけない」というNG対応に絞ってお伝えします。

この内容は、YouTube動画でもご覧いただけます。

家庭内暴力に苦しむ人は、約29万人!?

最初に、家庭内暴力に悩んでいる親は、どのくらいいると思いますか?

ひきこもりの子どもを抱える親のうち、身体的な暴力をふるわれている割合。
公的な調査などはありませんが、私たちの支援経験では、およそ2割です。
暴言も含めると、もっと割合は上がります。

ひきこもりの人数は、現在の調査結果では、およそ146万人です。
146万人の2割は、約29万人です。

「子どもに暴力をふるわれている親は、自分だけじゃない」
「自分と同じように苦しんでいる親は、もしかすると29万人もいるかもしれない」
まず、そう思ってください。

それだけの人数が苦しんでいるかもしれない事象なのです。
ですから決して「恥」だと思わずに、外部の人を頼ってください。

決して、家庭という密室にこの深刻な問題を閉じ込めないことです。

最も危険なNG対応:暴力に耐える、受け入れる

暴力が出た時に絶対にやってはいけない、親のNG対応。

その筆頭が、暴力に耐え続けることです。

「自分が我慢すれば、いつかこの子の気持ちも落ち着くはず」
「親なんだから、受け止めてあげなくちゃ」
「今は下手に刺激しない方がいい」

などと思って暴力を受け入れ、暴力に耐え続けてしまうこと。
これが最も事態を悪化させます。

ひきこもりの家庭内暴力の原因は?

そもそもなぜ親へ暴力をふるうのでしょうか?
親への怒りや憎しみでしょうか?

一概には言えませんが、私たちが見てきたケースでは、うまくいかない自分や未来への、不安・焦り・イライラなどが大半です。
それを、一番身近な存在である親にぶつけているのです。

「親のせいだ」と攻撃することでしか、自分の心のバランスが取れない。
「自分はこんなに苦しいんだ!お母さん助けてくれ!」と心では叫んでいる。

家庭内暴力は、そんな悲痛なSOSなのです。

暴力を受け入れてしまうと、子どもは救われない

もし親が暴力を受け入れて、ただ耐えてしまうと、どうなるでしょうか。

多くの親は、暴力に耐えるだけで、心身ともに精一杯になります。
子どもが苦しんでいる自分のことや未来のことには、何も着手しません。

そうすると本人の状況は、変わらず苦しいままです。
そこに何の救いもありません。

原因は放置されていますから、暴力は続きます。
むしろこの程度じゃダメなのか、どうやったらこの苦しみを分かってくれるんだ、動いてくれるんだと、暴力がエスカレートしたりします。

「また親に暴力をふるってしまった」という苦しみ

私たちが見てきた中では、「親のせいだ」と言って暴力をふるいながらも、心のどこかではそうではないと分かっている人が大半です。

彼らは暴力をふるった後に、虚しさや、親への申し訳ない気持ちを感じています。
暴力をふるう度に、「また暴力をふるってしまった」という思いや、親への申し訳なさで、苦しむのです。

そして根本原因の苦しみも、そのまま続きます。

親が暴力に耐えることは、子どもを楽にすることにはつながりません。
子ども本人の中では何も解決しないし、むしろ苦しみが増してしまう。
そんな対応になります。

NG対応:子どもの要求をすべて呑む

子どもの要求をすべて呑むのも、NG対応です。
理由は先程と同じで、本当の原因は他にあるからです。

例えば暴力でお金を要求してきたとしても、それは表層の要求に過ぎません。
表層の要求を聞いても、やはり本人が本質的に救われるわけではないので、きりがありません。

それどころか、暴力に屈することは、親子間の歪んだ支配関係をより強くしてしまいます。

そして、子どもは一度通った表面的な要求をまた通すことに固執し、根本的な問題からますます目をそむけてしまいます。

言葉では「金をよこせ」と言って来たとしても、「本当は自分の明るい未来をよこせと言っているんだ」と捉える。

そのくらいの気持ちで、表面的な言葉に翻弄されないようにしましょう。

支援者のNG対応:「様子を見ましょう」

支援者のNG対応についても、触れておきます。

家庭内暴力の相談を受けて、「様子を見ましょう」「もう少し頑張って」といったアドバイスは厳禁です。
近年でも、「相談したらこう言われました」という声を聞きます。

家庭内暴力のケースでは、ある程度家庭の中に介入していく対応が必要になります。
訪問などをしていない、介入する術を持たない支援者が、とりあえず「もう少し様子を見ましょう」と言っているのかも知れません。

そういう場合は、訪問などを行っている、介入できる支援に、早めにつなぐようにしてください。
その間も親は暴力を拒否する、必要なら一時避難するなどの対応を勧めてください。

また「頑張って」という声かけは、暴力を受けていることを肯定しかねません。
親の暴力の受け入れ、事態の常態化や悪化につながりますので、この言葉も避けてください。

暴力そのものは絶対に受け入れてはならない、拒否すべきものです。

子どもの表層的な言動に翻弄されないで

子どもの責める言葉をそのまま受け取り、「自分が悪いんだ」と思ってしまっている。
相談を受ける中で、そんな親をたくさん見てきました。

暴力、暴言、それらを伴う要求。

多くのケースで、これは問題の表層でしかありません。
子どもが抱える問題の本質は、その奥にあります。

表層である暴力にただ耐えても、本質的な悩みは解決しませんし、子ども自身も暴力をふるった事実に苦しみます。
表層の要求を聞いても、子どもは本質的には満たされず、要求がエスカレートします。

親がお子さんの表層の言動に翻弄されないことが大切です。
そして恥だと思わずに、外部の人に相談してください。

これが家庭内暴力の解決の、入り口です。

家庭内暴力の解決へ

NG対応が分かったら、次は暴力の解決です。
解決方法は、こちらのコラムで、3つのステップに分けて解説しています。

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執筆者 : 久世 芽亜里(くぜ めあり)

久世芽亜里

認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。

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