ニート・引きこもり解決の鍵は「きっかけ作り」~親ができる生活環境改善の具体策

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ニートはきっかけを待っている

高校二年生で不登校になり、約一五年間自宅に引きこもっていた33歳の義人くん。

彼もニュースタートの寮に入って劇的に変わった一人です。

一年前に公務員のお父さんが他界されて、61歳のお母さんが一人で相談にいらっしゃいました。
ご主人がなくなられたことで、かなり切羽詰ったお気持ちだったと思います。
私が面接したのですが、見るからに真面目で几帳面そうな方でした。

お姉さんは結婚して家を出ていて、母子二人暮らしです。

義人君は、買い物などにはちょくちょく外出しているので、引きこもりというよりニートに近い状態でした。

そこで、まず彼の母親への依存心を断ち切るために、お母さんに家を出ることをすすめました。
はじめて母親がいない孤独感を味あわせることで、それ以降の彼の変化に期待しましょう、と。
彼がニュースタートニに入寮するまで、代わりにお母さんが家を出て寮に来てくださいとお願いしました。

お母さんも相当な覚悟を決められて、

「あんたが出て行かないなら、私が出ていく」

息子にそう言い残して、家を出て寮にいらっしゃいました。

息子もまさか母親が出ていくとは予想外だったようです。
ここ一五年間で、家に一人でいるなんてはじめて。しかも立派なお宅らしいから、さぞや孤独だったと思います。

しばらくして、彼のお姉さんに、「オレが悪かった」と彼の携帯電話からメールが入りました。
それからまたしばらくすると、今度はお姉さんの家に彼が遊びに来て、すすめられるままに一泊していったそうです。

やはり、いくら母子間の会話がないと言っても、人の気配のない家というのは違います。
彼もかなり人恋しかったのでしょう。

それでも、私たちが義人君と交流して、入寮するまでには約一年間かかりました。

彼は自分で買い物ができたので、その間一人で自炊していたみたいです。
彼が入寮した直後に、お母さんには彼と顔を合わせないように、そっと自宅に戻っていただきました。
息子にはもちろん内緒にです。

義人君はとても優しくていい子です。
集団の中にもすっと入っていける。長年引きこもっていた若者にありがちな、他人を拒否するような態度がない。
家にいる頃は、イライラすると物を壊したり、最初私たちが訪問したときには、お皿を投げてきたりしたのですが、寮に慣れてくると、

「寮生活がこんなに楽しいとは思わなかった」

彼はそう言ってすごく気にいってくれています。
一年間に及ぶ一人暮らしが、彼を変えたのだと思います。
「もっと早く来てればよかった」と話していて、以前、お皿を投げつけたことに関しても、「あのときは、すみませんでした」と頭を下げて謝ってくれました。


26歳の洋介君も家を出るきっかけを待っていた一人です。

彼も高校時代に不登校になり、そのまま一〇年近く引きこもっていました。

彼は義人君と違って、家からは一切出ていないようでした。
ご両親は二人とも公務員で共働き。
お母さんの話ですと、二階の自分の部屋に引きこもっていて、かなり以前から、食事やトイレのときに部屋から出てくるだけの生活だったようです。

彼が部屋のドアをバンと開けるときの音が合図になっていて、ご両親は息子と顔を合わさないように、食堂から姿を消すらしい。
だから同じ家で暮らしながら、息子の足音は聞いても、顔を何年も見ていないというほどでした。

家族との会話も拒否した、完璧な引きこもりです。

ある日、外出していたお母さんが家に戻ってきたときに、息子の部屋のドアが開いたらしく、お母さんが反射的に隠れる前に、チラッと息子の後ろ姿を見た――それが三年近く前ということでした。
それ以来、息子の姿は見ていない。
そのとき、息子は髪はぼうぼうで、腰の下ぐらいまで伸びていて、がりがりに痩せていて幽霊みたいだったらしいのです。

この相談を受けたとき、これはかなり手ごわいなと思いました。

通常どおり、訪問スタッフはまず彼への葉書から始めました。
三カ月後に電話しても、彼本人は当然出ない。
そこで家庭訪問を始めても、本人にはなかなか会えない。
彼の部屋の前で、ドアごしにスタッフが話しかけても返事がない日が、半年近く続きました。
親も当然、洋介君には接触できません。

ある日、スタッフがいつものように訪問して、いつものように一方的に話して帰ろうかなと思ったときのことです。

いきなり洋介君の部屋のドアが開きました。
すると、長い髪をすっぱりと切って、傍らにボストンバッグを置いた彼が、「ニュースタートへ連れていってください」と頭を下げた。
スタッフは腰が抜けるかと思うほどビックリしたそうです。

私たちの問いかけに一度も返事をしなかったけれど、彼は彼なりにずっと考えていたのでしょう。

ニュースタートに来た当初、洋介君はなかなか人の顔をきちんと見ることができませんでした。
表情もなくどこかロボットめいた感じでした。
しかし寮生活が始まり、少しずつ他人と言葉を交わすようになって、ゆっくりと表情が出てきた。
人間関係が生まれていく中で、だんだん喜怒哀楽のある人間らしい顔になっていきました。

先日、洋介君が妹の結婚式で郷里に帰ったのですが、息子が話をしてくれるようになったと、ご両親もとても感激されていました。


このような事例は、ほかにもたくさんあります。

スタッフが訪問しても、最初はすごく反抗的だったり無視していても、あるとき不意にこちらが驚くほどあっさりと入寮に同意したりする。
突然動き出すわけです。

このままニートや引きこもりの状態を続けていても、何も変わらない――そんなことは、みんな心の底ではわかっているのです。
だから、動き出すタイミングや状況を変えるきっかけを彼らなりに探している。
親御さんは、思い切って生活環境を変えるといった、きっかけづくりを考えてあげるべきです。
心構えだけでは、どうにもなりません。

ニートは具体的なきっかけを待っているのですから。

「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より

このテキストは株式会社東洋経済新報社(以下「出版社」という)から刊行されている書籍「希望のニート」について、出版社から特別に許諾を得て公開しているものです。本書籍の全部または一部を出版社の許諾なく利用することは、法律により禁じられています。

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執筆者 : 二神 能基(ふたがみ のうき)

二神能基

認定NPO法人ニュースタート事務局理事。1943年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。1994年より「ニュースタート事務局」として活動開始。千葉県子どもと親のサポートセンター運営委員、文部科学省「若者の居場所づくり」企画会議委員などを歴任。現在も講演会やメディアへの出演を行う。

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