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ニートには3タイプーー「ニート対策」の混乱

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「ニート対策」の混乱――ニートには三タイプある

ここまで読み進めていただいた読者の方には、私が若者たちと日々接しながら感じていること、新聞やテレビで報じられる「ニートは働く意欲のない若者」論の間に、大きな落差を感じられて、少し混乱されているかもしれません。

それも無理ありません。

なぜなら、若年失業や雇用問題にくわしいはずの専門家の間でも、ニートについての見方や考え方はかなり混乱しているからです。

それは、政府が始めた「ニート」対策も同様です。

経済産業省の外郭団体に、企業活力研究所という財団法人があります。

そこの雇用・人材開発委員会の「ニート問題」対策部会に、私はオブザーバーとして参加しています。


そこでは若年失業の研究者や企業経営者、そして私のようにニート支援の現場で働いているNPO団体の人間などが集まり、議論しているのです。 

ニート支援の現場

もちろん、そこに集まられた皆さんは、それぞれの立場から真摯に考えられ、効果的なニート対策を考えておられます。

ただそのために、個別の各論としてはどれも正しいと思われるのですが、順序だった総論として、その対策の全体像が見えてこないのです。

先日もその会合で、意見を求められた私は、そんな戸惑いから

「各論はどれも妥当だと思いますが、全体として見ると、どうも腑におちません」

そう率直に発言すると、ほかの参加者からドッと笑いがおきました。

おそらく私同様に、なにか釈然としない気持ちを、ほかの方々も感じておられたのでしょう。

それを私なりの言葉にすると、本来いくつかのタイプ分けができるニートを、ひとくくりにして論じてしまい、全部一律に対応しようとしている――
そこから生じている矛盾のように思えてなりません。

一口に「ニート」と言っても、大まかに次の三つに分けられると私は思います。

①    就労についてのきめ細やかな情報提供を必要とする層(情報力必要型)
②    就労以前に、人間関係が苦手で社会に出てもすぐに挫折しそうな層(社会力必要型)
③    さらに生きていること自体にあまり喜びを感じられない層(人間力必要型)

ニートには、この三つのタイプが存在するというのが私の考えです。それらをひとくくりして、同じ対応をしても空転する若者が生まれてしまうのです。


まず、「①情報力必要型ニート」は、自発的な就職浪人や、就職活動をしたのに採用されなかった若者たちです。

こういう層には、きめ細やかな就職情報の提供やカウンセリングなど、いま政府が進めている「ヤングジョブカフェ(若者専門の就職相談所)」政策である程度は対応できると思います。

ただ、「②社会力必要型ニート」は、ジョブカフェ対応では難しい。

彼らは他人と話すときに何を話したらいいかわからない、と悩んでいるからです。

彼らは誰かと話すときに

「きちんと目的意識を持って話さないといけない」
「しっかりとした内容のある話をしなければいけない」

そんな強い思い込みがあり、そのせいで過度に緊張してしまい、他人とうまく話せない。

前にも書きましたが、そのために近所のおばさんと世間話をするのではなく、「話し方教室に通って勉強したい」と考えてしまったりするのです。

私が子どもの頃なら、近所のさまざまな年齢の子どもたちと遊ぶことで培えた力が、圧倒的に足りないのです。

年齢相応に他人と交流し、対話する力が未発育なのです。

このタイプは、ジョブカフェ対応では難しい。

あえて書けば、厚生労働省が行っている「若者自立塾」対応のほうがまだ近いはずです。


最後は、「③人間力必要型ニート」です。

あとでくわしく書きますが、私たちニュースタート事務局で開催している「お遍路プロジェクト(四国88カ所をニートの若者たちと歩く企画)」で、若者の変化を見ていると、まさに不足していた「人間力」が育ってきていると感じることがあります。

昼夜逆転した生活をしていた若者たちが、規則正しい生活の中で活力を取り戻していく様子が手に取るようにわかるのです。

お遍路ハウス

四国の大自然の中を歩く爽快感。

地元の人の思いやりをありがたいと感じる心。

お菓子やファーストフードではなく、新鮮な食材が持つおいしさを感じる味覚。

 しっかりと歩き食べてぐっすり眠ることの幸福感――

そういう感覚が彼らの中で次第に目覚め、引きこもりやニートの若者たちの表情が目に見えて健康的でほがらかになり、その言動が明るく生き生きし始めるのです。

まさに生きる喜びを彼らが取り戻していくわけです。

その鮮やかな変化に接していると、反面、彼らがいかにそれまで生きる喜びを感じられない場所で生活してきたのかを思わずにいられません。

そういう若者たち(すなわち「③人間力必要型ニート」)には、就職情報や社会力以前に、たとえばお遍路体験のように、まず生きる喜びを体感する場所づくりが必要になるのです。


おそらく、現在の若手失業やニート問題への対応が混乱しているのは、以上のようなニートの区分けと、それぞれに応じた対応が必要だという共通認識が持てていないからだと思われます。

専門家の間ですらそうなのですから、世間一般の人たちの中でニートへのイメージが、まだまだ曖昧なのも仕方ありません。

上記のタイプ分けで言うと、ニュースタートで生活するニートの若者たちは、ジョブカフェ対応では難しいタイプの若者たち、すなわち「②社会力必要型ニート」と「③人間力必要型ニート」の若者たちです。

そんな若者たちに、私がどんな言葉を投げかけているかを、次に紹介したいと思います。

>>次回

「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より

このテキストは株式会社東洋経済新報社(以下「出版社」という)から刊行されている書籍「希望のニート」について、出版社から特別に許諾を得て公開しているものです。本書籍の全部または一部を出版社の許諾なく利用することは、法律により禁じられています。

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執筆者 : 二神 能基(ふたがみ のうき)

二神能基

認定NPO法人ニュースタート事務局理事。1943年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。1994年より「ニュースタート事務局」として活動開始。千葉県子どもと親のサポートセンター運営委員、文部科学省「若者の居場所づくり」企画会議委員などを歴任。現在も講演会やメディアへの出演を行う。

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