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事件によせて

痛ましい事件が、連続して起こっています。
そしてそれらが、「引きこもり」「8050問題」などのワードを伴って報道されています。

引きこもりへの偏見が強まるのではないか・・・
そんな心配の下、複数の支援団体などが考えを表明していらっしゃいます。

うちの子がこんな事件を起こしたらどうしよう・・・
そんな親御さんの不安の声も聞こえます。

同様の事件を起こさないために、どうすればいいのか・・・
たくさんの方が答えを求めていることでしょう。
そこで、ニュースタート事務局の考えを記しておきたいと思います。
事件の情報はメディア報道から得たものですので、事実とは違う可能性があることは、ご承知おきください。

川崎の事件について

まず、川崎で児童らが襲われた事件についてです。

他の支援団体の方々と同様に、「この事件と引きこもりを結びつけるべきではない」と私たちも考えています。
私たちが知る引きこもりは、とても真面目で心の優しい方たちです。
他者に危害を加えるような人たちではないのです。

この事件の犯人となった男性は、報道を見る限りでは、引きこもる以前から暴力性や衝動性の片鱗があり、他者とのコミュニケーションがうまくいっていなかったようです。
引きこもりにより事件を起こしたのではない、と言えるでしょう。

ただし、引きこもりを放置されたことで、事件を回避するチャンスを失った可能性はあります。
同居の伯父伯母の介護という家の中の変化は、男性の心の変化を促したと思います。

私たちは、「3年を越える引きこもりは、長期化でなく固定化」と言っています。
固定し安定した引きこもり生活を送っている当人にとって、変化は大きな不安を伴います。
増してこの男性は実子でもなく、伯父伯母が亡くなったらこの家に住める保証もないわけですから、これからの生活に強く不安を感じたことでしょう。
この不安が、事件の大きなきっかけになったのではないでしょうか。

ですが、最後のチャンスがあったはずです。
伯父伯母が市に相談し、手紙を書いています。
結局は男性の拒否の言葉で、様子見という流れになっています。

ここでもっと踏み込んだ介入をしていたら・・・と思えてなりません。
固定化している当人は、変化を促されれば拒否をするのが当然です。
一度や二度の拒否に負けず、心のどこかで他者を求めている、変わりたいと思っていると信じ、介入をし続けること。
これが、一歩踏み込んだ介入です。
実際私たちはこのやり方で、多くの引きこもりの人たちを外の世界につないできたのです。

結果としてただ放置された男性は、不安を募らせたことでしょう。
思考し、感情が増幅されていったと思います。
ところが増幅されていく方向が、私たちの知る引きこもりの人たちとはだいぶ違いました。

普通は自分や親にその感情が向かうものなのですが、この男性はその矛先が他者でした。
これは引きこもる以前から持つ、この男性のパーソナリティによる部分が大きいのではないでしょうか。

何年も引きこもり、自殺を考えたことがあるというニュースタートの卒業生から、こんな言葉がありました。
「『自殺するなら一人で』という論争はおかしい。
あれは自殺ではない。
自爆テロだ」
自分たちとは異質、という強い思いを感じる言葉でした。

練馬の事件について

次に、練馬で起きた父親に殺害された男性の事件についてです。

先ほど、感情が向かうのは自分か親、と書きました。
親に向かい、エスカレートすれば、いずれ家庭内暴力になります。
現場の体感ですが、暴言まで含めると、家庭内暴力は引きこもりの1~2割には起こっている印象です。

細かいメカニズムや対処法は、当方の理事の二神による「暴力は親に向かう」という書籍に全て記してあります。
2007年の出版ではありますが、私たちの考え方は今も全く同じです。

この中で大きなポイントが2つあります。

  • 家庭内暴力と他者への暴力は別物であること
  • 暴力の対処の第一歩は、親子が離れること

家庭内暴力を受けている親御さんが、「外の人にもやるのでは・・・」と心配されているかと思います。
この事件も、父親のそんな気持ちが報道されています。

私たちもひどい家庭内暴力のケースにはたくさん出会いましたが、彼らは他者にはとてもおとなしいのです。
(昔から暴力性や衝動性があった場合、幻聴や幻覚など病気と思われる症状が伴う場合などは別です)

引きこもりには元来真面目でやさしい人が多いのですが、そのパーソナリティは、引きこもりや家庭内暴力に陥っても、変わっていません。
「やさしい子だったのに・・・」と親御さんが思われるなら、他者に暴力が向かうことはないのです。
ですからとにかくそこは、安心していただきたいと思います。

そして対処の第一歩は、離れることです。
別に住むなど物理的に離れてしまえば、家庭内暴力は起こりません。
逃げないことが愛情だと暴力を受け続ける親御さんがいますが、それでは暴力も引きこもりも解決しません。
むしろ彼らは行き場のない感情を募らせ、暴力がエスカレートしていく場合が多いのです。

そうやって親子が離れた状態で、第三者が介入し、当人を外の世界につないでいくのが解決法になります。
当人が外とつながり、働きだすなどして心境の変化がみられると、親子で会っても暴力をふるわなくなります。
引きこもりにも色々ありますが、家庭内暴力は親だけで解決するのが特に難しいケースなのです。

この事件で言えば、第一段階はできていました。
ですが報道によればただ一人で住ませただけで、第三者による介入は行っていなかったようです。
外とのつながりのないまま時間が過ぎ、事件の1週間前に男性は実家に戻ります。
また暴力が始まるのは、私たち支援者には火を見るよりも明らかです。

この男性の場合は、一人暮らしをさせたところに、第三者が介入していかなければならなかった。
親がそれを依頼しなければならなかった。

発達障害だったという報道もあります。
であれば聴覚過敏を伴う場合もありますので、運動会の音が本当にストレスだったのかも知れません。
ますます専門機関による支援が必要です。

「やるべきこともせずに殺すとはなんだ!
そんなのは責任を取ったとは言わない!」
理事の二神は、報道を見た当時、大変怒っていました。

家庭内暴力を受けている親御さんは、まず我が子から離れてください。
そして、しかるべき機関に介入を依頼してください。
決して、我が子を殺してはなりません。

社会は今後どうしていけばいいのか

最後に、社会が今後どうしていけばいいのか、です。
2つの事件の男性たちは、長く孤立していたように感じます。
それは引きこもりの期間だけでない、もっと以前からです。
例えば引きこもる前の10代20代の頃の男性に、誰か理解し寄り添ってくれる人がいたら、事件は起こらなかったのではと思えてなりません。

「孤立しない社会を作ること」
これが最大の予防法です。
孤立していそうな人、孤立の手前にありそうな人に声をかけ、つながっていくことが、私たち一人一人ができることではないでしょうか。

そして大きすぎる予防法になってしまいますので、引きこもりについて今すぐできることも触れておきます。
今まさに悩んでいる親御さんは、家族で抱え込まず、外に助けを求めてください。
専門機関に相談に行ってください。

そして専門機関の方々は、一歩踏み込んだ支援へシフトしていってください。
まずは踏み込んでくれる支援機関を紹介するだけでもいいと思います。
様子見で終わらせない、きちんと介入できる支援体制を作っていきましょう。

これが、私たちが提案する防止法です。

彼らを排除するのではなく、つながることが、次の事件を生まないためにできることだ。
そんな考え方が広がることを願っています。

認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ 久世

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同じ引きこもり・ニート状態であっても、その状況はそのご家族によってみな違います。
ニュースタート事務局では、ニート・引きこもりの解決のために、あなたの息子さん・娘さんに最もよいと思われる方法を、豊富な経験からご提案いたします。

執筆者 : 久世 芽亜里(くぜ めあり)

久世芽亜里

認定NPO法人ニュースタート事務局スタッフ。青山学院大学理工学部卒。担当はホームページや講演会などの広報業務。ブログやメルマガといった外部に発信する文章を書いている。また個別相談などの支援前の相談業務も担当し、年に100件の親御さんの来所相談を受ける。

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