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ニート・引きこもりのわが子に、語れない父親たち

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子どもに会社員人生を語れない父親たち

では、一方のお父さんたちは大丈夫かというと、どうもこちらも心もとない。

多くの親御さんと面談している私から見ると、子どもがニートになったとき、大半の父親は無力です。

学校の先生みたいに、

「学校ぐらい卒業するもんだ!」
「アルバイトではなく正社員として働け!」

その程度のことしか言えなかったりします。

一度面談に見えた、ある保険会社の幹部の方が、私にしみじみと語ったことがあります。

「サラリーマン生活の前半はお気楽でしたが、バブル崩壊後の最後の一〇年間は本当に苦しい時代でした。

もうリストラにつぐリストラで、何人の部下の首を切ったかわかりません。

自分が組織の中で生き残るために、本当に嫌な仕事ばかりでした」

50歳から60歳の父親、ちょうど私と近い世代の父親が、サラリーマン生活の最後にすごく厳しい時期を迎えているのです。

そうなると、「終わり良ければすべて良し」の反対で、サラリーマン時代はむしろ思い出したくない時代になってしまいがちです。

これから社会に出ていく息子たちの未来は楽しいなんて、口がさけても言えません。

それを父親自身が実感として持っている。

だから、子どもが引きこもったりニートになっても、月並みな叱責しかできないのです。

「じゃあ、お父さんのサラリーマン人生は幸せだったの?」

そう子どもに聞き返されたら、満足に答えられる自信がない。
そういう展開になるのを内心恐れていたりもします。

私たちの世代で就職した人の多くは「会社人間」ですから、会社以外の仕事や生き方を語れと言われてもネタがありません。

しかも、肝心の会社員人生だって、古き良き頃の話と、思い出したくもない最後の一〇年間の両方を持っている。

そんな父親たちに、生き方に迷う子どもたちに語れる言葉なんてありません。

私の同級生の話を聞いていると、サラリーマン生活というのは、最後はたいていマイナス債権で終わるというわけです。

同期とその前後入社組との激しい出世競争があって、だんだんと絞り込まれていく。

最後に社長・役員になる人以外は、その競争に負けて終わるからです。

私たちのところにお子さんを預けている、保険関係の会社を早期退職されたお父さんでも、もう仕事は絶対にしたくないと、私の目の前で吐き捨てるように言われました。
最後に部下を何人も切るなど、相当嫌な思いをされたようです。

だけど、家族が、もっと言えば、社会人になる前の子どもたちがいるから、必死で我慢したんです、と。

いまの60歳前後のそんな父親たちが、生き方が見えなくなった子どもたちに、いったい何を語れるのでしょうか。

もちろん、子どもが不登校やニートで生き方を迷っているとき、父親はきちんと一人の男として向き合ったほうがいいのかもしれません。

人生の先輩として、自分のサラリーマン人生の長所・短所、仕事に対する考え方、社会で働くことの意味を、自分の言葉で子どもに語り聞かせたほうがいい

――理屈としては、もちろんそれは正しい。

だけど、自分の最後の一〇年間を考えても、子どものサラリーマン人生は、相当厳しいものになることだけは間違いない。

そうなったら、一流大学に入れて卒業させるところまでは育てられても、そこから先は語れません。

語りたくても語るべきモデルを、父親自身が持たないのです。
それが、大半の父親たちが置かれた現実だと思います。

当然、子どもだってそんな父親の背中を見ています。

自分たちだって就職は厳しい。

その一方で、父親みたいに、生涯を会社にささげるように生きても、結局、最後は報われなかった。

かといって、自分も受験競争の中で、好きなことや興味ある仕事を考えることもなく、周囲に流されるまま、勉強して進学してきた。
だからとくにやりたい仕事もない。

さて、どうしようか・・・・・。

そんな宙ぶらりんな若者こそがニートなわけです。
そんな宙ぶらりんな父親たちが、ニートの子どもを持つ父親たちなのです。

>>次回 

「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より


このテキストは株式会社東洋経済新報社(以下「出版社」という)から刊行されている書籍「希望のニート」について、出版社から特別に許諾を得て公開しているものです。本書籍の全部または一部を出版社の許諾なく利用することは、法律により禁じられています。

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執筆者 : 二神 能基(ふたがみ のうき)

二神能基

認定NPO法人ニュースタート事務局理事。1943年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。1994年より「ニュースタート事務局」として活動開始。千葉県子どもと親のサポートセンター運営委員、文部科学省「若者の居場所づくり」企画会議委員などを歴任。現在も講演会やメディアへの出演を行う。

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