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ニートは、「お金」だけでは働けない

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モノより根性が欲しい

ニートの若者たちと話していて、非常に私が痛感させられるのが、彼らの「物欲のなさ」です。

何か物質的な豊かさにたいする疑問みたいなものが、彼らにはあるように思われて仕方ないのです。

たとえば、ニートの若者たちとお酒を飲みながら、私はよく、

「おまえ、欲しいものを何かひとつ言ってみろ」

と訊いてみます。

すると、彼らの最初の答えは例外なく、

「別に・・・・・」 

です。

でも、それじゃ面白くないから、二回目は必ずひとつ答えろとしつこく訊くと、

「根性」

なんていう答えがポロッと出てきます。

根性

そんな答えが出ると、ああ、これはこれは両親から「おまえは根性がない」と言われつづけてきたんだなと私は思うのです。

そこでたたみかけるように、何か欲しいものはないかと訊くと、 

「身長」
「友だち」
「恋人」

といった答えがやっと返ってきます。

私は1943(昭和18)年生まれですけど、欲しいものは何かと訊かれたら、20代の頃なら、すぐに10個くらいは言えました。

たとえば、「自動車」「ステレオ」「有名ブランドのスーツ」「マイホーム」などです。

ですから、ニートの若者たちの物欲はとても少ない。

これは30歳前後の団塊ジュニア世代にも、出世欲も物欲もないという傾向があるという説があるようです。

私の世代の人間は、あの車を買うためには数百万円、東京の郊外に一戸建てを買うためには数千万円稼がなければいけない、ということが目標でした。

しかし、いまになると、仕事の社会的意味などは考えずに、会社の利益や、自分の給料と物欲のためだけに、がむしゃらに働いてきたことへの反省もあるわけです。

自分の子どもの育て方は、本当にこれでよかったのか、という不安も強い。
ちなみに、最初に私に「根性が欲しい」と言ったのは、開業医の息子でした。

親が跡継ぎにしたがり、本人も医学部志望でしたが、高校のときに学校に行けなくなりました。

彼の父親は、典型的なわれわれ世代。
立派な庭付きの豪邸に住んでいて、高級車ジャガーに乗っている。

私に「先生、1500万円でジャガーを買いました。今度これでどこかへ行きましょう。」と言ってくれるのですが、私が見るに、息子はそういう父親をせせら笑っているふしがある。

直接、言葉にはしないけれど、父親をつまらないやつだとなと思っているわけです。

豪邸や高級車を否定されるならまだしも、そのために働いている自分をせせら笑われてしまうと、それが豊かさの象徴だと思っている父親はつらいと思います。
人格をまるごと否定されているわけですから。

父親の物欲を下品だと思う若者には、「年収1000万円のために、自分の時間を犠牲にして馬車馬のように働く」なんていう選択肢はありえません。

欲しいものが「根性」の場合、そのためにいくら稼がなければ、という話にはならないわけです。

つまり、私たちの世代とは明らかに違う価値観を彼らは持っているのだということを、きちんと認識する必要があるのです。

「金儲け」だけでは働けない

そんな物欲のなさの延長線上にあるのが、「お金儲けに対する否定的な感情」です。

これは彼らの長所ではないかと私には思えるのです。

先日、ニュースタート事務局を卒業し、いまは私たちがやっているような、老人介護のデイ・サービス施設で働いている康成君(30歳)と会ったときに、彼が話してくれたことが、とても印象的でした。

「8割ぐらいは自分が生活していくために働いていますけど、残り2割ぐらいは、社会の、他人の役に立っているという実感があります。

逆にそれがないと、ぼくは残りの8割の気持ちも支えられないと思います。」
彼は私にそう話してくれました。

デイ・サービスとは、介護が必要な老人の食事や入浴介助、あるいはリハビリを兼ねた軽度の運動などを、専門のスタッフが手助けするサービスです。

一般家庭で、それらをこなすのは、かなりの時間と労力が求められる。

それを通所施設で日帰り形式のサービスとして請け負っています。

ニュースタート事務局も、ニートの若者たちの働く場所づくりに、デイ・サービス施設として地元の自治体から認可を受け、そのサービスを行っています。

康成君は、大学入学時に友だち作りがうまくいかず、地方の国立大学で不登校、そして引きこもりになりました。

大学の下宿で三年、大学中退後は実家で二年。

それから私たちのところで五年間活動していて、昨年半ばに、突然ハローワークに行き、ホテルのフロントの仕事を自分で見つけてきました。

最初の三カ月は試用期間。
彼の話では、比較的若手を育てようという意識のある職場だったようです。

まるで頭の後ろにも目があるかのようなプロのホテルマンもいて、仕事を学ぶには格好の職場だと思っていたようです。
だけど、午後二時から午後九時までの勤務で、実際には十一時頃まで働くという勤務形態。

にもかかわらず、時給は850円と研修生扱い。雇用保険のみで、厚生年金や健康保険もない。
年金と健康保険の対象になるには、旅行代理店からの予約が適切に処理できるという「Bランク」に昇格しないといけないわけです。

「Bランク」になるためには、単に予約を受けていればいいわけではなく、ホテルの稼働状況などを勘案しながら、ケース・バイ・ケースで判断しないといけない。

だから彼としては、少し暇な日に自分なりにあれこれ試してみて、一日でも早く仕事を覚えたい。

にもかかわらず、暇な日はお客が少ないので休みにされてしまうのです。

ホテル側からすれば、仕事もないのに研修生に給料を払うのは無駄なわけです。

「給料も勉強する機会も減らされる」
康成君はそう話していました。

この話を聞くかぎり、残念ながら彼はただの繁忙期の「調整弁」でしかない。
しかも、退勤時刻も遅いから、職場での人間関係も満足につくれない。

ニート

そのため、彼は一カ月半でそこを辞めました。
金儲けだけの目的では、彼は労働意欲を維持できなかったのです。

いまはデイ・サービス施設で、元気で働いています。

「ニュースタートにはいい加減な部分もあったけれど、これは社会のために必要な仕事なんだという部分があったじゃないですか」
彼はそう言ってくれました。

彼には、金儲けだけの職場はきっと虚しかったのでしょう。

同世代の若者とくらべて多少人生を回り道した分、働きはじめた元ニートの若者には、康成君みたいに仕事への目的意識が明確な若者が多いように思われます。
旅行の添乗員を派遣社員でやっている男の子も、お客さんが旅行先で喜んでいる顔を見るのがやりがいだと言っています。

また、IT会社でシステムエンジニアとして働いている男の子も、ひとつのプロジェクトで自分なりの役割を果たせていることが嬉しいと言っています。
かつて彼らはニートでした。

だけど、彼らはけっして働く意欲がなかったわけではないのです。

「お年寄りを待てる」という才能

ニュースタート事務局で、地域の高齢者を対象にしたデイ・サービス事業を始めたのは五年ほど前です。

その事業を通して発見したのが、ニートの若者たちの「お年寄りを悠々と待てる」という才能でした。

そのデイ・サービスと並行して、ホームヘルパー二級の資格をとるための養成講座も定期的に開き、一般の人たちと寮生たちが、一緒にそこで講習と実技を学ぶ場になっています。

そこでヘルパー二級の資格を取得した寮生たちが、介護の現場で実体験を積めるのがデイ・サービス事業なのです。

これが私の予想以上に評判がいい。

その理由を考えると、大きく二つあるのだということに気づきました。

ひとつは、3割の赤字を覚悟して利用者の数を絞り、利用者とスタッフの割合を一対一に極力近づけようとした点です。

一般の施設はスタッフ1人につき、4~5人のお年寄りを見ようとするから、どうしても効率重視になってしまう。

ほかの施設なら毎日30人の利用者を受け入れるべきところを、私たちは一日10人前後に抑えています。

週に二回利用する人もいるから、合計約30人の近隣のお年寄りが利用しています。
好評なもうひとつの理由は、うちの若者がお年寄りたちを急かさないことのようです。

デイサービス

これは実際にやっていただかないとわからないと思いますが、お年寄りの食事に付き合うのはかなり大変です。
食べるのが遅いし、口に入れてもなかなか思うように飲み込んでくれません。

そのプロセスを効率化しようと、流動食だけを提供している老人ホームもあるくらいです。
しかし、デイ・サービスで働くニートの若者たちは、悠々とお年寄りを待てる。

それが作為的でないことはお年寄りにも伝わるから、本当に安心して食べられる。
引きこもりやニートの若者は、テキパキと動くのが苦手なタイプが多い。

とりわけ、引きこもり生活を解消したばかりの時期の若者は、言動ともにかなりスローです。
長期間引きこもっていて、他人と会話したこともなく、運動することもなかったのですから、言動がスローで当たり前です。

ですから、効率優先の企業社会には不向きかもしれませんが、逆に福祉分野での適正はかなり高いのではないか、と私は思っています。

そのような分野では、実は彼らの「スローさ」というのは才能なんだと私はつくづく思うのです。

今後ものすごいスピードで高齢化が進むわけですから、彼らが求められるニーズは間違いなく高まっていきます。

同時に、彼らのスローな才能をもっと活かすことが、日本がいま以上に多様で人間に優しい社会になることにつながっていくのだとも考えています。

>>次回

「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より

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執筆者 : 二神 能基(ふたがみ のうき)

二神能基

認定NPO法人ニュースタート事務局理事。1943年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。1994年より「ニュースタート事務局」として活動開始。千葉県子どもと親のサポートセンター運営委員、文部科学省「若者の居場所づくり」企画会議委員などを歴任。現在も講演会やメディアへの出演を行う。

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