地方ほど孤立し、ニート・引きこもりが長期化

地方の若者ほど行き場がない

ニートが社会問題として重要なのは、大都市圏より地方のほうがはるかに深刻な点です。
私は全国縦断講演会などで地方にもよく出かけるので、それが実感としてよくわかります。

厚生労働省の職業分類によると、3万~4万種類ほどの職業が存在するそうですが、それは首都圏での話です。
たとえば、私の郷里の愛媛県松山市なら、おそらく1000ぐらいに激減するはずです。
それほど地方都市では、若者たちの職業選択の幅が圧倒的に狭いのです。

しかもニートへの風当たりも隣近所の目も、地方のほうがはるかに厳しいわけです。
そのために、若者たちや家族はもっと追いつめられてしまう。

先日、鳥取県の鳥取市と米子市で講演会をやったときのことです。

二つの都市で順番に同じ趣旨の講演をしたのですが、すると鳥取市の講演会場には米子市在住の人が、米子市の会場には鳥取市在住の人がやってくるわけです。
受付で住所などを簡単に書いてもらっているので、それがわかりました。
みんな知り合いに会ってはいけないからと、車で二時間もかかる違う市の会場まで、わざわざ私の話を聞きにきているのです。

地方で講演会を行う場合には、テレビカメラなどにも相当気を使わないといけません。
テレビカメラがあると怒りだす人は、地方が圧倒的に多い。
コミュニティーが狭くて濃密だから、ニートは親の責任であり家の恥だから隠さなければ、となるのです。

私のところにも沖縄の離島からやってきた若者がいます。

あんな自然の豊かな島で、どうして引きこもるのかと訊いてみました。

すると、その島には高校がなく沖縄本島の高校に通学していて、そこで人間関係に悩んで退学すると、実家から出られなくなった――そう言うのです。

島じゅうの人が自分のことを知っている状況なので、島で誰かに合う度に、「おまえ、学校はどうした?」と質問攻めにあう。
高校を辞めたという一番話したくない話題にならざるをえない。
それが苦痛で、家から一歩の外に出られなくなった、というわけです。

そのようなことから、地方のニートは、長期化する傾向にあります。

そして、ニートとその家族は、地域社会から孤立していかざるをえないのです。

「希望のニート」二神能基著 2005年6月2日刊行 より

このテキストは株式会社東洋経済新報社(以下「出版社」という)から刊行されている書籍「希望のニート」について、出版社から特別に許諾を得て公開しているものです。本書籍の全部または一部を出版社の許諾なく利用することは、法律により禁じられています。

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執筆者 : 二神 能基(ふたがみ のうき)

二神能基

認定NPO法人ニュースタート事務局理事。1943年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒。1994年より「ニュースタート事務局」として活動開始。千葉県子どもと親のサポートセンター運営委員、文部科学省「若者の居場所づくり」企画会議委員などを歴任。現在も講演会やメディアへの出演を行う。

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